読書ログ:『陰謀の日本中世史』

陰謀の日本中世史 (角川新書)

陰謀の日本中世史 (角川新書)

突然の謎の中世ブームを巻き起こした「応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)」の著者による「陰謀」を軸にした中世日本史上の様々な事件の解説書および俗説珍説の批判書。便乗書ではなく構想自体は『応仁の乱』以前からあったらしい。

書評なんかでは「ガチの歴史学者が世にはびこる俗説珍説を滅多斬り!」みたいなニュアンスのもあるみたいだが、実際に読んでみると終盤の本能寺の変関ヶ原以外ではあまりそういう感じはなく、中世日本の陰謀事件の数々について、俗説および過去の学説に対し歴史学的手法により批判し、現在の主流の学説や自説を展開するという普通の歴史解説書の趣が強い。これについては俗説珍説が多い時代=人気のある時代=織豊期という事情もあるのだろう。

とはいえ源平合戦応仁の乱など有名な出来事についても俗説と最新の学説ではかなり隔たりがあるというのがよく分かり面白いし、俗説と(現時点で妥当性が一番高いとされる)史実を丹念に比較していくことで、陰謀論の特徴が見えてくる興味深さもある。

著者曰く陰謀論疑似科学に通じる面もあり、本能寺の変の真相がどうであろうと人生に大した影響はないが、間違った民間療法は命に関わる。なので陰謀論リテラシーを高めて疑似科学にも騙されないようになろう、とのこと。その通りだと思う。

読書ログ:『狼は帰らず アルピニスト・森田勝の生と死』

[まとめ買い] 神々の山嶺(集英社文庫)』に登場する孤高のクライマー・羽生丈二のモデルとなった森田勝の一代記。ところどころに夢枕獏の小説のエピソードのモデルとなったと思われる出来事、記述が現れて面白い。

羽生丈二は登山を始めた最初から天才クライマーであり、人間的にも確立された一人の人物として描かれているが、実際の森田勝は技術的にも人間的にも未熟なところから成長を重ねてきたという当然の事実がよく描写されている。特に面白いのは、森田の若い頃から付き合いのあった同世代のクライマーと、歳を重ねてから出会った年下のクライマーとで森田評が全く異なる点。恵まれない境遇、コンプレックスから始まった森田の登攀遍歴だが、「三スラの神話」で一度それらを跳ね返したことで人間的にも大きな変化があったことを伺わせる。

にもかかわらず、おそらくは心の奥底、芯の部分は変わっておらず、それがグランド・ジョラスへの執念となり滑落死へと繋がっていくラスト。人の業の深さと言ってしまうとなんとも安直な表現だが、純粋すぎて一般社会には馴染めなかった森田勝らしいと言えばらしい最期なのかも知れない。

映画は散々だったらしいが原作小説は抜群に面白い。

長谷川恒男 虚空の登攀者 (中公文庫)

長谷川恒男 虚空の登攀者 (中公文庫)

同じ作者による森田のライバル、長谷川恒男の伝記。こっちも読んでみようかな。

読書ログ:『砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?』

W杯の予習として読んでおこうと思ったら結局読了したのはW杯終了後という残念な展開。でも面白かった。

内容としては「5レーン理論」という現代サッカーの主流理論を軽く紹介した上で、ハリルのアルジェリア、日本での代表的な試合を取り上げ解説。ハリルが現代サッカーの潮流と日本代表の現実との狭間で「何をやりたかったのか」を明らかにしていくもの。

たまにサッカー見るんだけど、この辺の高度な戦略、戦術論になるとさっぱり分からなかったので図を交えて丁寧に解説してくれて分かりやすかった。願わくばハリルだけでなく欧州の強豪クラブチームの戦略、戦術も同じ作者に解説してほしいと思うぐらい。

もともとはW杯でのハリル采配をより楽しむための副読本として計画し書かれていたが、〆切直前で解任が発表されたため急遽構成を見直したらしい。本書でも、また各所でも言及されているが、やはり直前での解任となりこの4年間の成果を検証する機会が失われてしまったことはとてつもなく大きな損失のように思える。

本戦では「上がアレでも監督含めた現場の頑張りで結果を残してしまう→本質的な課題が覆い隠されてしまう」という日本社会の縮図。哀しい。次は森保監督でオールジャパン体制って大丈夫なんだろうか果たして。

解説者の流儀

解説者の流儀

CS見る人には既にお馴染みだったが、日韓大会で赤モヒカンだったイメージしかなかった戸田和幸がいつの間にか非常に優れた解説者(そしておそらくは優れた指導者)になっていたことが今回のW杯で全国に知れ渡ってしまった。というかテレ朝以外の民放の解説陣(+山本昌邦)がひどすぎるのだが……

読書ログ:『サピエンス全史(下)』

2018年上半期に読んだ本たち - ふゆみけ〜おかわり〜」にも書いたけど、半期ごとにまとめるスタイルだと数多いと大変&最初の方の内容忘れてる、となってしまうので下半期からは1冊ずつ残していくことにする。

てな訳で中途半端だけど下巻から。

印象に残ったのは

  • 科学革命は無知を自覚したところから始まった
  • したがって「世界にはまだ知らない場所があり、そこを探検・征服したい」という動機の帝国主義と相性がよい
  • 無知から始まり知識を広げていく科学革命から「進歩」という発想が生まれた
    • それ以前は現在は過去より劣った時代であるという発想が支配的だった
  • 進歩という発想のおかげで資本主義が成立し得た
    • 「進歩(=成長)する」という発想がないと投資は成り立たない

というあたり。

言われてみればキリスト教って「昔は楽園だったけどそこで罪を犯した人類が〜〜」という筋書きだし、昨日より今日、今日より明日のほうが優れているという発想って我々は当たり前のように持っているけど実は近代の産物というのは、驚きだけど納得感がある。

著者も言及しているけど歴史学の大きな役割の一つは、こうした要領で現代の我々が当たり前だと思っている価値観、あるいは伝統や文化といったものは実は相対的なものに過ぎないと明らかにすることなんだろう。

陰謀の日本中世史 (角川新書)

陰謀の日本中世史 (角川新書)

今はこれを読んでいる。『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)』の人の新作。

歴史は実験できるのか――自然実験が解き明かす人類史

歴史は実験できるのか――自然実験が解き明かす人類史

こちらは『[まとめ買い] 銃・病原菌・鉄』の人が著者のひとり。Kindle版出たら読みたいが専門書のくくりっぽいので果たして出るのか……!?

2018年上半期に読んだ本たち

恒例になってまいりました。今期は1ヶ月ファッション無職やってたり1週間入院してたりした関係で数が多いです。全34冊なり。

小説

八甲田山死の彷徨

八甲田山死の彷徨

遭難モノ、山岳モノに突然ハマり出す。ということでいきなりド定番からスタート。

雪山ヤバい。無謀な計画で行くのはもっとヤバい。という小学生並みの感想しか出てこないほど極寒の雪山は恐ろしいのである。まだ観てないから映画も観よう。

映画は散々な評判のようだが映画化されただけあって原作はめちゃくちゃ面白い。実在の人物、実在の出来事をベースにしつつフィクションを交えたリアリティと奥行きの深さ。息もつかせぬミステリとそして何より山の魅力。「そういうのいいからはよ山行けよ!」と思う箇所もあるが夢枕獏からしゃーないか。映画まだ観てないが、こっちは……まあ……いいか……

狭小邸宅 (集英社文庫)

狭小邸宅 (集英社文庫)

官房機密費と関連が深いと噂されるまとめサイトで取り上げられたのを思い出して買った。不動産営業ってブラックのイメージが強いがやっぱイメージ通りなんだな(これもフィクションではあるのだが事実を元にしてるとしか思えないディティール)。

不動産とMRとかヤバいって聞くけど脚色もあるから本当はそこまでじゃないよね、と思ってたんだが最近見聞きする範囲だと「現実もステレオタイプ通りじゃねーか!」というのが割と多い気がする。

北海タイムス物語

北海タイムス物語

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』、『七帝柔道記 (角川文庫)』でお馴染み増田俊也の新作小説。増田俊也作品なのに女っ気がある! という小さな驚きもあるが「辛すぎる環境で何かを見出して頑張っていく自伝的小説」というベースは七帝柔道記と共通するものがある。私にはそういうの無理なので小説で味わうだけに留めたい。

賛否両論ありますが私はアニゴジすごく好きです。怪獣映画にそこまで強い思い入れがないからというのはありそうだが「虚淵よくやった! 俺が観たかったのはこういうのなんだよ!!」と特に2作目で強く思った。最終回にも期待。

ノンフィクション

遭難モノにハマった端緒。自分では絶対に体験したくないが、こういう極限状態モノには心惹かれるものがある。自分では絶対に経験したくないが(大事なことなので二回ry)。

人の砂漠 (新潮文庫)

人の砂漠 (新潮文庫)

何と言ったらいいのか、社会のメインストリームでは決してなく、スポットライトの当たらない人たちに焦点を当てたルポなんだが対象が元売春婦だったり辺境の島だったり詐欺師だったり相場師だったりと色とりどり。彼ら彼女らを一言でまとめるならやはり「人の砂漠」しかありえないという点ですごいタイトル。

最初の2篇がインパクト強すぎるんだが個人的に一番印象に残ったのは与那国島の話。今では最果ての孤島みたいな扱いだが、本土どころか沖縄本島よりも台湾の方が近いこの島は戦前は中継地として栄えていて台湾とのつながりの方が深かった。それが敗戦により国境線が変わったことで「辺境」となってしまう。

伝わるか分からんのだが「与那国島は日本最西端の孤島」というのを当たり前に思っていた自分の頭をガーンとやられたような感覚で、最南端とか最西端とか結局は偉い人の都合で勝手に決められたもので必然性などない。国境とは、戦争とは……とジョン・レノンのように歌い出したくなる(ならない)。30過ぎてこういう感覚を味わえるのは貴重なのでちゃんと味わおう。

本書とは関係ない話をするが、沢木耕太郎といえば深夜特急。読めば海外行きまくりたくなるのが確定しているので今まで読まずにいたが、そろそろ足を踏み入れるときが来た気がする。

コンビニ外国人(新潮新書)

コンビニ外国人(新潮新書)

最近コンビニに限らず小売や飲食で日本人じゃない人がやたら増えてきたけどなんで? 単純労働じゃビザおりないよね? 留学生なのかな。でも留学生ってこんなにたくさんいる? という誰もが思うだろう疑問に答えた一冊。移民反対とか欧州であんな感じになってるから日本じゃ移民無理とかほざいてるけど既に移民の労働力なしじゃ日本社会成り立ってないんだよバーカ! と言いたくなる(誰に?)

日本大丈夫かいなと暗い気持ちになりつつも、お上がアレでも現場の努力で何だかんだやってけるんだろうなという気持ちにもなる。不法就労はもちろんNGだが。

阪神のF投手がもう見てて辛い、という理由で手に取ったが読んでみるとかなり刺さった。

というのも読み進めると「え、これもし自分がプロ野球選手とかプロゴルファーとかになってたら性格上絶対イップスになってる」という気持ちにどんどんなって恐ろしくなってきたから(なれないだろというツッコミは却下)。

イップスには技術的な要因もあるが、精神的にはいろいろ考えすぎるのが駄目らしい。無心で、シンプルに徹することが克服の秘訣。 思えば自分も最近歳のせいか足し算思考というか、あれもこれもに陥っていた気がする。もっと思考をシンプルにしよう。

人文・思想・歴史

やや大雑把なくくりではある

古代〜近世の貨幣価値や物価を頑張って現代に揃えて「山上憶良の年収は1400万円!」みたいな切り口から当時の人たちの生活に迫る内容。 あくまで概算ではあるがこうアプローチされると一気に身近に感じることができる。そしてやはり小文字の歴史は面白い。

結構前に読んだが再読。マイナー主義なので孔子よりも墨子とかの方が好みではある。だけど近年数多く発見されている新出土史料を読み解くと、神聖化される以前の儒家の思想もダイナミックで面白い。でもやっぱり無為自然でありたい。

入門 老荘思想 (ちくま新書)

入門 老荘思想 (ちくま新書)

てな訳でやっぱり老荘だよ! と読んでみたものの、やはり軽く触れるだけだとなんとも掴みどころのない、難しい思想。それでも各論で面白い教訓や、今風に言うとパワーワードがいっぱい出てくるし、だからこそ民間信仰として広がっていったのだが、根本原理であるところの道とは何なんだ、というのがやっぱり難しい。そろそろ原典読み込むしかないのかな。

ファッション無職中に宮古島行ったので友人から勧められたこれを読んだ。正直著者の「縄文に返れ!」という主義主張には正直同意しかねるが彼の感性とエネルギーはやはりすごい。

宮古島で夜に暇だなーとBS観てたらたまたま太陽の塔のリニューアル特集やってて見入ってしまった。進歩と調和がテーマの万博で「進歩なんてクソ食らえ! 縄文に返れ!」とあんな訳の分からない塔をおっ立てられるのはすごいし、それを認めた度量もすごい。

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

なぜレトリックが存在するのか。それは闇雲にことばを飾り立てるためではなく、工夫をこらして黒を白だとねじ込むためではない。

言葉の奥深さというか、柔軟さというか、しぶとさというか。有限のことばで無限のものごとや感情を表現し伝えようとする人類の営み。

1年ちょい前にすごい流行ったやつを今更読む。

ホモ・サピエンスの営みを「認知革命」「農業革命」「科学革命」の3つの契機を軸に記述する内容。「認知革命」とは初めて聞いたが、存在しないものを思考できるようになったことで文化が生まれ、それによりサピエンスの行動様式が進化より遥かに早いスピードで変化できるようになり爆発的に繁栄することができた、という流れは説得力がある。

今は下巻を読んでるが、歴史学者の矜持というか、歴史学の役割についてかなり踏み込んできている印象。政治的な議論をいろいろしたくなるが、ここではやめとく。

ビジネス・デザイン・リーン

これもやや強引なくくりに見えるかもしれないが、最近自分の中ではこの辺一体なので。

UXデザインの教科書

UXデザインの教科書

UXの勉強会とか行ってプロが話してる中でも「ここでのUXの意味は一体……?」みたいな感じによくなるのでUXの定義は本当に難しい。

この本で解説しているUXはかなり広義な方だと思う。が、それでいいのだろう。ぬるっと動くインターフェイスとかイカした流行りのデザインとかを闇雲に追求しても、ユーザーの課題を解決できなったら何の意味もないし。 「教科書」というタイトル通り、がっつり理論から入って特に第一部は概念的な説明が多く、生半可な覚悟で望むと脱落しそうではある。が、食らいつくべき。

ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン

ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン

内容としてはハウツーに近いのだが理論に根ざしているのでとても良い。あと実例が豊富で、実際のWebサービスを例に挙げて思いっきりdisったりしていて面白いw

問題点としては「てにをは」レベルの誤字があまりに多く、中には誤字のせいで意味がまるっきり反対になってるのすらあって読んでてフラストレーションが溜まる。細かい誤字でも積み重なると読書体験を大きく損ねるという反面教師を狙ってるのか(んなわけない)。

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press

ドが10個付いていいほどのド定番。リーン・スタートアップを前に読んだけど、そのエッセンスは既にこっちでほぼ出てますね。

成功した企業は優秀であるがゆえに、顧客の声に真摯に耳を傾けるがゆえに破壊的イノベーションに根こそぎ持ってかれるというストーリーはホラーですらある。破壊的イノベーションこわい。

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

デザインは科学なんだ、というのを改めて強く感じさせてくれる。と言いつつ、いわゆるアートに近い領域からデザイン思考、UXデザインまで「デザイン」の言葉でくくるのがそろそろ限界な気が。UXの定義が難しいって話を上でしたけど、デザインも同じだね。

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)

理論を学んだら実践あるのみ。リーンキャンバスを作ってMVPを作って顧客の所に行ってフィードバックサイクルを回しまくろう。

『実践〜』の方は今すぐ実行できそうな内容が多いが、『Lean UX』の方はめっちゃいいこと書いてあるんだが実践まわりがざくっとしか書いてなくてアクションのイメージがつき辛い。悲しい。

技術書

「今更かよ!」という声が聞こえてきそうだがそもそもサーバサイドメインでやってきたので、ES6以降の記法とかはつまみ食いでしか把握しておらず、一回体系的にやっとこうということでさらっと読んだ。

と言いつつ最近はフロントエンドのコード書かない仕事(というかそもそもコード自体あんまり書かない)にシフトしてるが……

スターティングGo言語 (CodeZine BOOKS)

スターティングGo言語 (CodeZine BOOKS)

仕事で必要になるまでは本格的に書ける必要はないが、さすがにこれだけ普及してるので思想なり特徴なりは掴んでおかないとまずかろう、ということで写経した。

「新しい言語の入門書読んだ後に何するべきか問題」があるが、自分は言語処理100本ノックの最初の方をやってる。

音楽

夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー

夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー

1997年のフジロック初開催から今まで、コアな音楽好きのイベントとして始まった音楽フェスが一般層に広まっていった経緯や理由を詳細に記述する内容。 当時の雑誌やインタビュー、最近ではツイートなどとにかく一次資料に当たるという姿勢が強く感じられ、まるで論文を読んでいるような気分になる(笑。

「音楽業界は世間一般の変化を先取りする、と主張する人もいる」という趣旨の記述が本文中にある。それが事実かどうかはともかく、というか音楽産業以外にも同じぐらいのスピードで変化している産業は確実にあるが、モノ消費からコト消費へ、テクノロジーの進歩(特にWebとSNS)、東日本大震災……といったトピックが産業構造の変化に及ぼす影響をここまで詳細に、しかも同時代的にまとめられた論考を他分野で見ないので一面の真実なんだろうと思う。

内容に戻ると「音楽にさほど興味ない人がフェスに大挙して訪れるようになったことについて価値判断はしないよ!」と再三述べているが、わざわざ何度も言及するということは本当は価値判断したくてたまらないということであり、本文中で何度も気持ちが漏れ出ようとするのを抑えている感じが見えて親しみが持てる(笑。

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

こちらはヒット曲という観点から2000〜2010年代に起こった音楽産業の変化を分析する内容。視点が若干異なるだけで、↑の本と共通する部分が非常に多い。こちらは音楽関係者(いきなりTKが出てくる)へのインタビューを基調としており資料的価値も高い。

「90年代のCDバブルが異常で今の方がむしろ健全」という複数の関係者および著者の主張はホントそうだなと思う。プロ野球とかも巨人戦の視聴率がゴールデンで毎日20%越えてた時代が異常で地域密着が進んだ今の方が明らかに健全だし(観客動員数も伸びてる)。色々あるけど今の方が昔よりいい時代だよ。

上2つで散々書いてる音楽産業の大変化の原因は一つではないにせよ、どう考えても一大元凶であるのはコピーの流通。海賊版で溢れるインターネットのせいでCDの売上が激減していくまでを、mp3の開発者、音楽を「盗む」CD工場の労働者、流行を作り出す音楽プロデューサーの3者の目線から追ったのが本書。

一般大衆に音楽が所有されるようになったのはエジソン以降、ごく最近に過ぎないし、レコードあるいはCDはそもそも本質的に複製であり、自由な共有を阻んでいたのはちょっとした技術的問題に過ぎない。圧縮技術とインターネットにより技術的問題がクリアされた以上、所有から共有に向かうのは必然とも言える。

むしろ歴史的には音楽が所有されるものだった時代は大きな変化のうちほんの一瞬の過渡期であり、エジソンは「音楽を所有可能にした人」ではなく「音楽が世界中で共有できる基礎を築いた人」として後世に記憶されるんじゃないかな。

感想は人によっていろいろだが、自分はむしろ爽やかな読後感だった。ネタバレになるから理由は書かないけど。

相撲

大相撲の経済学

大相撲の経済学

何でも経済学の概念で説明しようとしてやや牽強付会の感は否めないが、大相撲の一見奇妙にみえるしきたりも合理的にできてるんだよ、という観点は面白い。人類学っぽい。

相撲界も昨今いろいろ問題になっている。今の時代にそぐわない慣習は変えていかないと、というのは当然あるが、「現代の我々とは違う論理で動いているが、その中では合理的に動いている世界」を単に遅れたもの、劣っているものとみなすのは完全にマルクス史観で2018年にもなってそんなことを言ってるとマジで人類が進歩してない感があって悲しいのでなんとかしてほしい。

相撲ってルールはとてもシンプルだが内容はとっても深くて、中継見てても何言ってるのか分からないことが多い。突き落としと引き落としと叩き込みの違いとか全く分からなくてNHKのアナウンサーはなんで瞬時に分かるのか超能力者かよと思ってしまう。

だから読んだ。決して自分で相撲を取りたいわけではない(笑

相撲診療所医師が診た力士たちの心・技・体

相撲診療所医師が診た力士たちの心・技・体

かなり古い本だが、相撲診療所という未知の世界の話が読めて面白い。当時の力士や親方とのエピソードも豊富で、相撲はやはり奥が深い。

その他

プロ野球と鉄道 (交通新聞社新書)

プロ野球と鉄道 (交通新聞社新書)

すげーニッチなところを攻めた本(笑。とはいえ内容は興味深く、「東海道新幹線が開業した直後から巨人がV9を達成した」とか「広島の初優勝は山陽新幹線が全線開業したのと同じ年」とか面白いエピソードが、それぞれの開業により移動時間がどれだけ短縮されたかと共に出てくる。

もちろんV9やカープの初優勝は移動が楽になったことだけが理由ではないが(現に、移動がとても過酷だったにも関わらず3連覇を達成した西鉄ライオンズの例も本書で出てくる)、プロ野球と新幹線の開業という、別々に知っている知識が実は裏でつながっていたというアハ体験。面白い。

タイトルが何やら怪しげだが、著者は「医療政策学×医療経済学 – Health Policy X Health Economics」の人で『「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法』の共著者なので読む前から信頼性が高いことが分かっている。どうやら一般層にも届くように敢えてこのタイトルにしたらしい。実際売れてるから成功なんだろう。

内容はちゃんとエビデンスの取れてる食品を紹介してこれ食いましょーねっていう話で反論の余地がない。過度に食べたいもの我慢するのも良くないが、特別な日や会食でもない普段の、それほどこだわりのない食事で健康に悪いものわざわざ食べるのは無駄なのでなんとかしたい。

全編通して言えるのは「お酒は適量(純アルコール換算で1日20g)を守りましょう!」ということ。それだけ。

最後に

これだけ数があるとまとめて書くのは辛い。半年前に読んだのだと忘れてることも多いし。次からは1冊読むごとに軽く感想書いてく形式にしようか。

モヒカンに殴られないためのPython環境構築〜2018初夏〜

目的はモヒカンに殴られるリスクを最小限に抑えてPythonの環境を構築することです。モヒカンにさえ殴られなければ病気の子供が増えようが世界が核の炎に包まれようがどうでもいいです。

概要

  • pyenvを使うと
  • 殴られるので
  • 標準のvenvと
  • direnvで
  • なんとかするよ

Anacondaは一度も使ったことないので知らね

環境

  • Ubuntu18.04

そもそもの話で18.04に上げるときに気が向いてクリーンインストールにしたのでPython入れ直す必要が生じてわざわざこんな記事を書いているのである。

手順

direnvのインストール

https://github.com/direnv/direnv#install

Pythonのバージョンを切り替えるためにいちいちGo入れるのは理解に苦しむのでaptで入れた。

仮想環境の作成

Ubuntu18.04のデフォルトだとvenv入ってなかった

$ apt install python3-venv
$ python3 -m venv ~/.venv/default

. ~/.venv/default/bin/activate して正しく入ってるか確認

direnvの設定

$ echo ". $HOME/.venv/default/bin/activate" > .envrc
$ direnv allow

プロンプトの変更

defaultのときも (default)$ と出るのはウザいのでdefault以外でしか出さない

show_virtual_env() {
  if [ -n "$VIRTUAL_ENV" ]; then
    env_name="$(basename $VIRTUAL_ENV)"
    if [ "$env_name" != "default" ]; then
      echo "($env_name)"
    fi
  fi
}
PS1='$(show_virtual_env)'$PS1

.zshrc に上記を追加

バージョン共存させてみる

気分でpypyを入れてみる

$ wget https://bitbucket.org/pypy/pypy/downloads/pypy3-v6.0.0-linux64.tar.bz2
$ tar -jxvf pypy3-v6.0.0-linux64.tar.bz2
$ sudo cp -R pypy3-v6.0.0-linux64/ /opt
$ /opt/pypy3-v6.0.0-linux64/bin/pypy3 -m venv ~/.venv/pypy3
$ mkdir pypy
$ echo ". $HOME/.venv/pypy3/bin/activate" > pypy/.envrc
$ cd pypy
(pypy3)$ 

まとめ

モヒカンには関わりたくない

2017年下半期に読んだ本たち

数えてみると全15冊。上半期よりペースが落ちている。くやしい

上半期と比較するとプログラミングやデータ分析から徐々にプロダクト開発(「どう作るか」ではなく「何を作るか」の観点)や組織、経営に興味が移りつつある。果たして今年はどうなることやら

例によって読んだ順ではなくカテゴリ別で

データ分析

異常検知と変化検知 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)

異常検知と変化検知 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)

分野としては異常検知、変化検知限定なんだけど手法的には機械学習の各種手法のオールスター感があって腕試しにとても良い。単なる手法の解説にとどまらず背景理論の説明や他分野との比較まで踏み込んでおりそこもとても良い。

が、たまに(章の最後の補足部分が特に)レベルが突然上がって数学弱者にはとてもつらくなったりするがその部分は本筋の理解には関係なかったりするので読む側にも取捨選択するリテラシーが求められる。

それを差し引いてもすごく良い本。レベルとしてははじパタを数式丁寧に追いながら読んだ経験があれば食らいつけるかな、ぐらい。

岩波データサイエンス Vol.5

岩波データサイエンス Vol.5

これも単体としてはいいと思うんだが↑の異常検知本を読んだ後だと内容がかなり被ってる(で、もちろんMLPシリーズの方が踏み込んで書かれてる)ので個人的には読まなくてよかった。が、岩波DSの存在意義は広く薄くだと思うので別にこの本は悪くない。読んだ順番を間違えた私が悪いのだ(急にどうした)。

グラフ表現の奥深さはこの業界にいる人間なら誰しも実感していることと思うが、感や経験で各種グラフ表現のユースケースはある程度把握しているものの、本来あるはずの理論的背景が分からず困る、というのも実感している人が多いのではないか。

こうした課題に答えてくれる、ありそうでなかった本。

と、この点に関してはすごくいいのだが、後半のデータジャーナリズム云々でやってる分析が(紙幅の都合もあろうが)とっっっっても浅くて「そりゃないだろ」という出来なので後半いらなかったんじゃないか説。

社会科学

社会シミュレーション ―世界を「見える化」する― (横幹〈知の統合〉シリーズ)

社会シミュレーション ―世界を「見える化」する― (横幹〈知の統合〉シリーズ)

社会科学研究におけるシミュレーションの応用について概観した本。買う前から薄々感づいてはいたんだが数理社会学シリーズを何冊か読んだ後なので特に真新しい内容はなかった。これも私の選択ミスである。これ以上この分野深めたいなら論文読め。

ビジネス

サブカテゴリ掘った方がいいんじゃないかと思うぐらいこのカテゴリの比重が高まってきたのが今期の特徴

プロダクトマネジャーの教科書

プロダクトマネジャーの教科書

本来は消費財メーカーにおけるいわゆる製品開発をターゲットに書かれてるんだが、ソフトウェア開発やWebサービス開発にも当然応用できるだろうと手に取った。

ポジショニングと「何をやらないか」を決めるのマジ大事という当然のお話。あとプロダクトマネジャーの果たすべき役割や仕事について網羅的に書かれてるがこれ全部1人でやるとどう考えても死ねる分量なので、実際にはプロダクトマネジャーはこのうち一部だけ管掌していて他の役割は各機能別組織が担ってるのが実像なんだろうけど、そこをどう割り振って権限移譲していくかはどう考えてもマジ難しい。つらみ。

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営

ドラッカー読むならこれが一番いいと同僚に勧めらたので読んだ。ことドラッカーについてはちょいとした付け焼き刃で理解した内容をここで開陳しても恥を晒すだけなので詳しくは書かないけど、とにかくミッションが大事という点とチャレンジしたいメンバーにはとことんチャレンジさせて責任はお前が取れ、でもってチャレンジしようとしないやつはほっとけ、という点が心に残っている。

GE 巨人の復活

GE 巨人の復活

GEがシリコンバレーのやり方をとことん模倣してデジタル製造業として復活したという話。正直大手にここまでやられたら吹けば飛ぶようなベンチャーに勝ち目はあるのかと思えてしまう。

てかこれだけは言いたいんだけどスタートアップの成功パターンってのは絶対に存在していて、もちろん不確実性があるから成功パターンなぞれても結果として確実に成功するわけではないんだけどそれを言い訳にして楽をして模倣すらしないできない輩が多すぎるんじゃないですかね。

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則

  • 作者: ジェイソン・フリード,デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン,黒沢 健二,松永 肇一,美谷 広海,祐佳 ヤング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/01/11
  • メディア: 単行本
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大きい会社や巨大プロジェクトじゃないと大きな成果を挙げられないとか幻想だよ、という主張の本。言いたいことは分かるがちょっと「人と違うこと言いたい」欲が強すぎて読んでるうちに大企業だってそんなに悪いところじゃないよ! と大企業の人でもないのに言いたくなってくる不思議。

それはともかくとして、↑や↓の本とも繋がるんだけどプロダクト開発で大事なのは引き算だから削ぎ落として考えようよ! という点だったり小さいチームなら小回りも効いて軌道修正しやすいから状況の変化にも柔軟だよねという点だったり学びは多い。

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

今更読んだのかと呆れられそうだが今更読んだ。自分の理解としてはリーン・スタートアップとは突き詰めると「現実と向き合う」ということ。頭の中の素晴らしいアイデアは現実ではない。それどころか顧客の言うこと自体もそれは現実ではない。現実は顧客の行動にしかないのでそことちゃんと向き合いましょうよ。でもって現実が当初思い描いていた計画と違ってもそれは恥でも何でもなく当然のことなのでピボット(方針転換)しましょうよ、というお話。

要所要所で出てくる「計画をどんなに効率的に遂行したってその計画自体が間違ってたらどうすんの? 計画通り失敗してどうすんの?」という煽りがつらい。

人文

人間・始皇帝 (岩波新書)

人間・始皇帝 (岩波新書)

積読消化プロジェクトその1。近年の出土資料に基づいて『史記』をベースにした通説を見直しましょうぜというお話。 『諸子百家―儒家・墨家・道家・法家・兵家 (中公新書)』でも最近新資料出まくりって書いてあるんだが中国が経済発展しまくって開発が進んでるから文字通り土に埋没してた資料が出てきてるとかそういう話なんだろうか。

贈与の歴史学  儀礼と経済のあいだ (中公新書)

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)

積読消化プロジェクトその2。こちらは新資料とかではなく既存資料を丹念に読み込んで中世日本の贈与のあり方を浮き上がらせようという話。読んでて思ったのは中世日本の研究者でもモースとかその辺の人類学の贈与論に言及するの当たり前になってるんだなという点。てか読者も知ってて当然でしょという体で話してくる。

あとやっぱりマルクス史観からの脱却。今が進んでる時代で昔(あるいは周辺)は遅れてるなんて誰が決めたんだバカヤローというお話。最近はてな界隈で日本は中世だって馬鹿にする向きがあるがそれって西欧近代こそが最先端で進んだ社会であり空間的時間的に離れた場所は遅れてて野蛮な未開人たちの世界だと暗に言っててそれはマルクス史観以外の何物でもないんだが君たち大丈夫か。今は2018年だぞ。

小説

第四部の文庫版が出たので第一部から読み直すなどしていた。この辺になると初期のハイテンション感は薄れていくんだけど、そのぶん著者の文章力と資料に裏付けされた説得力(恐らくこの人全部原著読んでる)とが際立ってくる。巨人たちが死にまくるんだけど特に周瑜関羽の死は泣ける。特に関羽の死(とうか死後)の描写は凄すぎてたぶんこんなの書けるの世界で酒見賢一だけだろうなと思う。三国志に少しでも興味があった人は手にとってみるべし。長いけど。

たぶん2年後ぐらいに第五部の文庫版が出ると思われるがそこでまた最初から読み直すんだろうな。

その他

相撲が好きなんです。好きだから最近の騒動には胸を痛めているんだが、何が一番胸が痛むかって協会が問題ある組織なのはそりゃそうなんだけどその中には当然真面目に頑張ってる人もいるし最近は真摯に相撲に取り組む若手も増えてきて成長している中で、普段ろくすっぽ相撲見てないクセに(見てないからこそ?)「あんな腐った組織早く潰れろ。大相撲なんてなくなれ」と簡単に吐き捨てる輩の存在。

自分が興味ないもの=社会に必要のないもの ではない。自分が興味なくてもそこに強い興味を持っている人、人生を預けている人はたくさんいるんだという想像力を失わずに2018年は生きていこうと思う。

なんだこの本の内容とは一切関係ないまとめは。