2018年上半期に読んだ本たち

恒例になってまいりました。今期は1ヶ月ファッション無職やってたり1週間入院してたりした関係で数が多いです。全34冊なり。

小説

八甲田山死の彷徨

八甲田山死の彷徨

遭難モノ、山岳モノに突然ハマり出す。ということでいきなりド定番からスタート。

雪山ヤバい。無謀な計画で行くのはもっとヤバい。という小学生並みの感想しか出てこないほど極寒の雪山は恐ろしいのである。まだ観てないから映画も観よう。

映画は散々な評判のようだが映画化されただけあって原作はめちゃくちゃ面白い。実在の人物、実在の出来事をベースにしつつフィクションを交えたリアリティと奥行きの深さ。息もつかせぬミステリとそして何より山の魅力。「そういうのいいからはよ山行けよ!」と思う箇所もあるが夢枕獏からしゃーないか。映画まだ観てないが、こっちは……まあ……いいか……

狭小邸宅 (集英社文庫)

狭小邸宅 (集英社文庫)

官房機密費と関連が深いと噂されるまとめサイトで取り上げられたのを思い出して買った。不動産営業ってブラックのイメージが強いがやっぱイメージ通りなんだな(これもフィクションではあるのだが事実を元にしてるとしか思えないディティール)。

不動産とMRとかヤバいって聞くけど脚色もあるから本当はそこまでじゃないよね、と思ってたんだが最近見聞きする範囲だと「現実もステレオタイプ通りじゃねーか!」というのが割と多い気がする。

北海タイムス物語

北海タイムス物語

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』、『七帝柔道記 (角川文庫)』でお馴染み増田俊也の新作小説。増田俊也作品なのに女っ気がある! という小さな驚きもあるが「辛すぎる環境で何かを見出して頑張っていく自伝的小説」というベースは七帝柔道記と共通するものがある。私にはそういうの無理なので小説で味わうだけに留めたい。

賛否両論ありますが私はアニゴジすごく好きです。怪獣映画にそこまで強い思い入れがないからというのはありそうだが「虚淵よくやった! 俺が観たかったのはこういうのなんだよ!!」と特に2作目で強く思った。最終回にも期待。

ノンフィクション

遭難モノにハマった端緒。自分では絶対に体験したくないが、こういう極限状態モノには心惹かれるものがある。自分では絶対に経験したくないが(大事なことなので二回ry)。

人の砂漠 (新潮文庫)

人の砂漠 (新潮文庫)

何と言ったらいいのか、社会のメインストリームでは決してなく、スポットライトの当たらない人たちに焦点を当てたルポなんだが対象が元売春婦だったり辺境の島だったり詐欺師だったり相場師だったりと色とりどり。彼ら彼女らを一言でまとめるならやはり「人の砂漠」しかありえないという点ですごいタイトル。

最初の2篇がインパクト強すぎるんだが個人的に一番印象に残ったのは与那国島の話。今では最果ての孤島みたいな扱いだが、本土どころか沖縄本島よりも台湾の方が近いこの島は戦前は中継地として栄えていて台湾とのつながりの方が深かった。それが敗戦により国境線が変わったことで「辺境」となってしまう。

伝わるか分からんのだが「与那国島は日本最西端の孤島」というのを当たり前に思っていた自分の頭をガーンとやられたような感覚で、最南端とか最西端とか結局は偉い人の都合で勝手に決められたもので必然性などない。国境とは、戦争とは……とジョン・レノンのように歌い出したくなる(ならない)。30過ぎてこういう感覚を味わえるのは貴重なのでちゃんと味わおう。

本書とは関係ない話をするが、沢木耕太郎といえば深夜特急。読めば海外行きまくりたくなるのが確定しているので今まで読まずにいたが、そろそろ足を踏み入れるときが来た気がする。

コンビニ外国人(新潮新書)

コンビニ外国人(新潮新書)

最近コンビニに限らず小売や飲食で日本人じゃない人がやたら増えてきたけどなんで? 単純労働じゃビザおりないよね? 留学生なのかな。でも留学生ってこんなにたくさんいる? という誰もが思うだろう疑問に答えた一冊。移民反対とか欧州であんな感じになってるから日本じゃ移民無理とかほざいてるけど既に移民の労働力なしじゃ日本社会成り立ってないんだよバーカ! と言いたくなる(誰に?)

日本大丈夫かいなと暗い気持ちになりつつも、お上がアレでも現場の努力で何だかんだやってけるんだろうなという気持ちにもなる。不法就労はもちろんNGだが。

阪神のF投手がもう見てて辛い、という理由で手に取ったが読んでみるとかなり刺さった。

というのも読み進めると「え、これもし自分がプロ野球選手とかプロゴルファーとかになってたら性格上絶対イップスになってる」という気持ちにどんどんなって恐ろしくなってきたから(なれないだろというツッコミは却下)。

イップスには技術的な要因もあるが、精神的にはいろいろ考えすぎるのが駄目らしい。無心で、シンプルに徹することが克服の秘訣。 思えば自分も最近歳のせいか足し算思考というか、あれもこれもに陥っていた気がする。もっと思考をシンプルにしよう。

人文・思想・歴史

やや大雑把なくくりではある

古代〜近世の貨幣価値や物価を頑張って現代に揃えて「山上憶良の年収は1400万円!」みたいな切り口から当時の人たちの生活に迫る内容。 あくまで概算ではあるがこうアプローチされると一気に身近に感じることができる。そしてやはり小文字の歴史は面白い。

結構前に読んだが再読。マイナー主義なので孔子よりも墨子とかの方が好みではある。だけど近年数多く発見されている新出土史料を読み解くと、神聖化される以前の儒家の思想もダイナミックで面白い。でもやっぱり無為自然でありたい。

入門 老荘思想 (ちくま新書)

入門 老荘思想 (ちくま新書)

てな訳でやっぱり老荘だよ! と読んでみたものの、やはり軽く触れるだけだとなんとも掴みどころのない、難しい思想。それでも各論で面白い教訓や、今風に言うとパワーワードがいっぱい出てくるし、だからこそ民間信仰として広がっていったのだが、根本原理であるところの道とは何なんだ、というのがやっぱり難しい。そろそろ原典読み込むしかないのかな。

ファッション無職中に宮古島行ったので友人から勧められたこれを読んだ。正直著者の「縄文に返れ!」という主義主張には正直同意しかねるが彼の感性とエネルギーはやはりすごい。

宮古島で夜に暇だなーとBS観てたらたまたま太陽の塔のリニューアル特集やってて見入ってしまった。進歩と調和がテーマの万博で「進歩なんてクソ食らえ! 縄文に返れ!」とあんな訳の分からない塔をおっ立てられるのはすごいし、それを認めた度量もすごい。

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

なぜレトリックが存在するのか。それは闇雲にことばを飾り立てるためではなく、工夫をこらして黒を白だとねじ込むためではない。

言葉の奥深さというか、柔軟さというか、しぶとさというか。有限のことばで無限のものごとや感情を表現し伝えようとする人類の営み。

1年ちょい前にすごい流行ったやつを今更読む。

ホモ・サピエンスの営みを「認知革命」「農業革命」「科学革命」の3つの契機を軸に記述する内容。「認知革命」とは初めて聞いたが、存在しないものを思考できるようになったことで文化が生まれ、それによりサピエンスの行動様式が進化より遥かに早いスピードで変化できるようになり爆発的に繁栄することができた、という流れは説得力がある。

今は下巻を読んでるが、歴史学者の矜持というか、歴史学の役割についてかなり踏み込んできている印象。政治的な議論をいろいろしたくなるが、ここではやめとく。

ビジネス・デザイン・リーン

これもやや強引なくくりに見えるかもしれないが、最近自分の中ではこの辺一体なので。

UXデザインの教科書

UXデザインの教科書

UXの勉強会とか行ってプロが話してる中でも「ここでのUXの意味は一体……?」みたいな感じによくなるのでUXの定義は本当に難しい。

この本で解説しているUXはかなり広義な方だと思う。が、それでいいのだろう。ぬるっと動くインターフェイスとかイカした流行りのデザインとかを闇雲に追求しても、ユーザーの課題を解決できなったら何の意味もないし。 「教科書」というタイトル通り、がっつり理論から入って特に第一部は概念的な説明が多く、生半可な覚悟で望むと脱落しそうではある。が、食らいつくべき。

ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン

ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン

内容としてはハウツーに近いのだが理論に根ざしているのでとても良い。あと実例が豊富で、実際のWebサービスを例に挙げて思いっきりdisったりしていて面白いw

問題点としては「てにをは」レベルの誤字があまりに多く、中には誤字のせいで意味がまるっきり反対になってるのすらあって読んでてフラストレーションが溜まる。細かい誤字でも積み重なると読書体験を大きく損ねるという反面教師を狙ってるのか(んなわけない)。

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press

ドが10個付いていいほどのド定番。リーン・スタートアップを前に読んだけど、そのエッセンスは既にこっちでほぼ出てますね。

成功した企業は優秀であるがゆえに、顧客の声に真摯に耳を傾けるがゆえに破壊的イノベーションに根こそぎ持ってかれるというストーリーはホラーですらある。破壊的イノベーションこわい。

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

デザインは科学なんだ、というのを改めて強く感じさせてくれる。と言いつつ、いわゆるアートに近い領域からデザイン思考、UXデザインまで「デザイン」の言葉でくくるのがそろそろ限界な気が。UXの定義が難しいって話を上でしたけど、デザインも同じだね。

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)

理論を学んだら実践あるのみ。リーンキャンバスを作ってMVPを作って顧客の所に行ってフィードバックサイクルを回しまくろう。

『実践〜』の方は今すぐ実行できそうな内容が多いが、『Lean UX』の方はめっちゃいいこと書いてあるんだが実践まわりがざくっとしか書いてなくてアクションのイメージがつき辛い。悲しい。

技術書

「今更かよ!」という声が聞こえてきそうだがそもそもサーバサイドメインでやってきたので、ES6以降の記法とかはつまみ食いでしか把握しておらず、一回体系的にやっとこうということでさらっと読んだ。

と言いつつ最近はフロントエンドのコード書かない仕事(というかそもそもコード自体あんまり書かない)にシフトしてるが……

スターティングGo言語 (CodeZine BOOKS)

スターティングGo言語 (CodeZine BOOKS)

仕事で必要になるまでは本格的に書ける必要はないが、さすがにこれだけ普及してるので思想なり特徴なりは掴んでおかないとまずかろう、ということで写経した。

「新しい言語の入門書読んだ後に何するべきか問題」があるが、自分は言語処理100本ノックの最初の方をやってる。

音楽

夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー

夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー

1997年のフジロック初開催から今まで、コアな音楽好きのイベントとして始まった音楽フェスが一般層に広まっていった経緯や理由を詳細に記述する内容。 当時の雑誌やインタビュー、最近ではツイートなどとにかく一次資料に当たるという姿勢が強く感じられ、まるで論文を読んでいるような気分になる(笑。

「音楽業界は世間一般の変化を先取りする、と主張する人もいる」という趣旨の記述が本文中にある。それが事実かどうかはともかく、というか音楽産業以外にも同じぐらいのスピードで変化している産業は確実にあるが、モノ消費からコト消費へ、テクノロジーの進歩(特にWebとSNS)、東日本大震災……といったトピックが産業構造の変化に及ぼす影響をここまで詳細に、しかも同時代的にまとめられた論考を他分野で見ないので一面の真実なんだろうと思う。

内容に戻ると「音楽にさほど興味ない人がフェスに大挙して訪れるようになったことについて価値判断はしないよ!」と再三述べているが、わざわざ何度も言及するということは本当は価値判断したくてたまらないということであり、本文中で何度も気持ちが漏れ出ようとするのを抑えている感じが見えて親しみが持てる(笑。

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

こちらはヒット曲という観点から2000〜2010年代に起こった音楽産業の変化を分析する内容。視点が若干異なるだけで、↑の本と共通する部分が非常に多い。こちらは音楽関係者(いきなりTKが出てくる)へのインタビューを基調としており資料的価値も高い。

「90年代のCDバブルが異常で今の方がむしろ健全」という複数の関係者および著者の主張はホントそうだなと思う。プロ野球とかも巨人戦の視聴率がゴールデンで毎日20%越えてた時代が異常で地域密着が進んだ今の方が明らかに健全だし(観客動員数も伸びてる)。色々あるけど今の方が昔よりいい時代だよ。

上2つで散々書いてる音楽産業の大変化の原因は一つではないにせよ、どう考えても一大元凶であるのはコピーの流通。海賊版で溢れるインターネットのせいでCDの売上が激減していくまでを、mp3の開発者、音楽を「盗む」CD工場の労働者、流行を作り出す音楽プロデューサーの3者の目線から追ったのが本書。

一般大衆に音楽が所有されるようになったのはエジソン以降、ごく最近に過ぎないし、レコードあるいはCDはそもそも本質的に複製であり、自由な共有を阻んでいたのはちょっとした技術的問題に過ぎない。圧縮技術とインターネットにより技術的問題がクリアされた以上、所有から共有に向かうのは必然とも言える。

むしろ歴史的には音楽が所有されるものだった時代は大きな変化のうちほんの一瞬の過渡期であり、エジソンは「音楽を所有可能にした人」ではなく「音楽が世界中で共有できる基礎を築いた人」として後世に記憶されるんじゃないかな。

感想は人によっていろいろだが、自分はむしろ爽やかな読後感だった。ネタバレになるから理由は書かないけど。

相撲

大相撲の経済学

大相撲の経済学

何でも経済学の概念で説明しようとしてやや牽強付会の感は否めないが、大相撲の一見奇妙にみえるしきたりも合理的にできてるんだよ、という観点は面白い。人類学っぽい。

相撲界も昨今いろいろ問題になっている。今の時代にそぐわない慣習は変えていかないと、というのは当然あるが、「現代の我々とは違う論理で動いているが、その中では合理的に動いている世界」を単に遅れたもの、劣っているものとみなすのは完全にマルクス史観で2018年にもなってそんなことを言ってるとマジで人類が進歩してない感があって悲しいのでなんとかしてほしい。

相撲ってルールはとてもシンプルだが内容はとっても深くて、中継見てても何言ってるのか分からないことが多い。突き落としと引き落としと叩き込みの違いとか全く分からなくてNHKのアナウンサーはなんで瞬時に分かるのか超能力者かよと思ってしまう。

だから読んだ。決して自分で相撲を取りたいわけではない(笑

相撲診療所医師が診た力士たちの心・技・体

相撲診療所医師が診た力士たちの心・技・体

かなり古い本だが、相撲診療所という未知の世界の話が読めて面白い。当時の力士や親方とのエピソードも豊富で、相撲はやはり奥が深い。

その他

プロ野球と鉄道 (交通新聞社新書)

プロ野球と鉄道 (交通新聞社新書)

すげーニッチなところを攻めた本(笑。とはいえ内容は興味深く、「東海道新幹線が開業した直後から巨人がV9を達成した」とか「広島の初優勝は山陽新幹線が全線開業したのと同じ年」とか面白いエピソードが、それぞれの開業により移動時間がどれだけ短縮されたかと共に出てくる。

もちろんV9やカープの初優勝は移動が楽になったことだけが理由ではないが(現に、移動がとても過酷だったにも関わらず3連覇を達成した西鉄ライオンズの例も本書で出てくる)、プロ野球と新幹線の開業という、別々に知っている知識が実は裏でつながっていたというアハ体験。面白い。

タイトルが何やら怪しげだが、著者は「医療政策学×医療経済学 – Health Policy X Health Economics」の人で『「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法』の共著者なので読む前から信頼性が高いことが分かっている。どうやら一般層にも届くように敢えてこのタイトルにしたらしい。実際売れてるから成功なんだろう。

内容はちゃんとエビデンスの取れてる食品を紹介してこれ食いましょーねっていう話で反論の余地がない。過度に食べたいもの我慢するのも良くないが、特別な日や会食でもない普段の、それほどこだわりのない食事で健康に悪いものわざわざ食べるのは無駄なのでなんとかしたい。

全編通して言えるのは「お酒は適量(純アルコール換算で1日20g)を守りましょう!」ということ。それだけ。

最後に

これだけ数があるとまとめて書くのは辛い。半年前に読んだのだと忘れてることも多いし。次からは1冊読むごとに軽く感想書いてく形式にしようか。