読書ログ:『狼は帰らず アルピニスト・森田勝の生と死』

[まとめ買い] 神々の山嶺(集英社文庫)』に登場する孤高のクライマー・羽生丈二のモデルとなった森田勝の一代記。ところどころに夢枕獏の小説のエピソードのモデルとなったと思われる出来事、記述が現れて面白い。

羽生丈二は登山を始めた最初から天才クライマーであり、人間的にも確立された一人の人物として描かれているが、実際の森田勝は技術的にも人間的にも未熟なところから成長を重ねてきたという当然の事実がよく描写されている。特に面白いのは、森田の若い頃から付き合いのあった同世代のクライマーと、歳を重ねてから出会った年下のクライマーとで森田評が全く異なる点。恵まれない境遇、コンプレックスから始まった森田の登攀遍歴だが、「三スラの神話」で一度それらを跳ね返したことで人間的にも大きな変化があったことを伺わせる。

にもかかわらず、おそらくは心の奥底、芯の部分は変わっておらず、それがグランド・ジョラスへの執念となり滑落死へと繋がっていくラスト。人の業の深さと言ってしまうとなんとも安直な表現だが、純粋すぎて一般社会には馴染めなかった森田勝らしいと言えばらしい最期なのかも知れない。

映画は散々だったらしいが原作小説は抜群に面白い。

長谷川恒男 虚空の登攀者 (中公文庫)

長谷川恒男 虚空の登攀者 (中公文庫)

同じ作者による森田のライバル、長谷川恒男の伝記。こっちも読んでみようかな。